CRITIQUE

草の上の仕事

『草の上の仕事』
いまひとたびの「はたらくとは何か」
谷岡雅樹

出演者が2人だけだ。そのひとりが、今は大物の太田光(爆笑問題)という「引き」もあり、当時より多くの人の興味を引くだろう。もともと日大芸術学部演劇学科出身である太田光は、横浜放送映画専門学院(現・日本映画大学)演劇科出身の内村光良が、映画監督へと向かったように、映画に近い位置に存在していた。したがって、冒険心や遊び心と映像表現への思いに共鳴してこの作品に参加したはずだ。


初めてこの映画を観たとき、レンタルビデオ屋の店長をしていた私は、末端のビデオ業界ではまだバブルが続いていたせいもあり、ひと回り年下のバイトたちと共に、かなり舐めた状態で仕事をしていた。だから当然2人のうち「太田側」から、ベテランの行う「熟練者のパワハラ」のごとき振る舞いを冷めた目で見ていた。マニュアルを示すことなく、身体で覚えさせられる不愉快な感覚。何のための仕事なのか大元を示さず、理屈さえ説明せず「言われた通りにやればいい」という不自由感。昭和の物語によくあった、技術のない若者が、未熟さを確認して成長していく過程や、気まずい2人が、仕事を通して和解する話などに、私は元々乗らない。それは嘘くささを感じるからだ。


だが、その手前のところで踏み止まって、問題を放置しながら、深い感慨と余韻を忘れ物のように置いていく。そんな映画なのだ。黒澤明が、「仕事というものは、やって行くうちに、その楽しさを覚えていくものなのだ」と言っていた。確かにそうだが、だからと言って、合わない仕事、或いは合わない人間関係もある。

草の上の仕事

「はたらくとは何か」という連載を、『図書新聞』に書いている。100回を超えて、未だに続いている。だからというわけでもないが、仕事に関して、しつこいほどに拘って生きている。『ビルメンテナンススタッフになるには』(ぺりかん社)という本を2017年に出した。これがコロナ禍の影響だと思うが、今年になって増刷された。皆、仕事が無いのだ。若くても、もちろん高年齢であっても、職探しに、はたらき方についても困っている。


この作品と、その続編のような『深呼吸の必要』という同じ篠原哲雄監督作品は、実は私にとって1つのバイブルである。若い頃に20種程度の職を経験したが、高年齢になって学校に通い、資格を取り、借金をして、書く仕事とは別の仕事を持つようになった。


あの当時観たときよりも沁みるのだ。今の若い人にこそ観てもらいたいと切に願う作品だ。この監督の背骨をなしている作品であり、人間とは分かり合えないからこそ愛おしいというその根本原理が、見る者には見える映画だ。


仕事というのは、「楽しい」とか「いくらになる」とか「次に繋がる」ということではない。その本質は人間が成長する。或いは、より深く生きることになる。そして他人を分かろうとするようになることだ。やっていくなかで昇華し、展開が生まれ、躓いても「やっていくなかで」解決していく。たとえゆっくりであっても、立ち止まらないことが大切だ。結局黒澤明か、と言われそうだが、そうではない。その答えがこの映画にはある。

谷岡雅樹(たにおか まさき)

62年北海道生まれ。ノンフィクション作家。建築物環境衛生管理技術者。現在「キネマ旬報」ベストテン選考委員。
著書に『竜二漂泊1983 』(三一書房)『Vシネマ魂』(四谷ラウンド)『三文ガン患者』(太田出版)『Vシネ血風録』(河出書房新社)『女子プロ野球青春譜1950』(講談社)『アニキの時代』(角川SSC新書)』ほか。