CRITIQUE

遺言

『遺言』
蓮實重彥

若い女性に拳銃を握らせるという『遺言』の発想は気に入った。
複数の人物をおさめる二、三の画面をのぞいて室内ショットもほぼ完璧だし、戸外の光景も申し分なく撮れており、大胆な溶暗による語りも聡明である。
ただ、引き金を引くか引かぬかがもっぱらの「心の問題」でしかないところが、惜しまれてならない。それにしても、人物、もしくは生きた死者(ゾンビ)を横たわらせる構図はむつかしい。

蓮實重彥(はすみ しげひこ)

映画評論家、フランス文学者。東京大学文学部仏文学科卒業。映画雑誌「リュミエール」の創刊編集長。1997年から2001年まで第26代東京大学総長を務める。1977年「反=日本語論」で読売文学賞、1989年「凡庸な芸術家の肖像 マクシム・デュ・カン論」で芸術選奨文部大臣賞、1983年「監督 小津安二郎」(仏訳)で映画書翻訳最高賞、2016年「伯爵夫人」で三島由紀夫賞受賞。他の著書に「「ボヴァリー夫人」論」などがある。1999年芸術文化コマンドゥール勲章受賞。